周東町
峡というより沢と形容した方が適切で、中心部は物見ヶ岳の山腹である。標高706メートルのこの山の頂上は広くゆるやかだが、中腹が急傾斜をなし、下部はまた緩斜面というように兜形である。高校生の時この沢筋を経て山頂に至り、さらには北面の藤ヶ谷まで遠征したことがあるが、なぜか沢そのものについての印象や記憶は皆無である。おそらくその頃は渓流に無関心だったのだろう。
宮杉は物見ヶ岳の西面に発し、方向を南に転じて上久杉で東川に合流する。その沢口の山際の路傍に杭程度の標柱があり、「宮杉峡ハイキングコース」と銘記されている。沢口から300メートルまでは変化があり、なかほどにしっかりした滝壺の8メートルの滝がある。
10年前、職場の同僚数人と野外宴をここで開いたことがある。マツタケ狩りの帰途で、獲物をおかずに飯を炊き、お神酒も少々といったところだった。中に俳句をたしなむ人がいて、こちらも初体験の句をひねらされた。その時の駄作が
えんこうも うたたねの秋 滝の音
である。この時の”えんこう”の本意は、淵の底に潜んで人の肝を抜きとるという仮想の動物のつもりだったが、その俳人は”猿猴”と解して少しばかりのお世辞を頂いた。
沢に沿って石ころだらけの林道が1キロ先まで通じている。そこまでの川筋は特記するものはないが車道の終点から川の様子がよみがえってくる。車道にかわって左岸に杣道が登場する。中規模の堰をかわすように登り勾配となり、途中大岩の側面を削ってついている。その道が左岸と右岸に分かれるところで、ピクニック派は右岸に、沢登り派は左岸に入り、やがて川床をたどるようになる。
両者は上シャンシャン滝で再会するはずである。沢は登るにしたがってよくなり、めぼしい滝にF6の下シャンシャンとF12の上シャンシャンがある。全体が岩肌の露出部の多い男性的な沢で、特にF12のまわりは広い露岩帯がピクニック心を誘う。
谷筋はほとんど杉の植林帯なので、植生上の妙味に欠けるが、将来はこのハイキング道を物見ヶ岳頂上に、さらには藤ヶ谷まで大きくしようという構想もあるそうである。
なお宮杉川の合流する東川の方も、そこから500メートル上流まではさわやかな清流が楽しめる。